利益と儲けは違うのだ!どんなんか区別しときましょ

2017.07.12 キャッシュフロー改善 研究 経営改善 資金調達と返済

1. はじめに
私のレポートで、「利益」と「儲け」は違うものであるという意味で使用し、論を進めてきた。
今回はそれぞれの定義を明確にしたい。どんなものを「利益」と呼び、どんなものを「儲け」と呼んでいるのか明確にすることによって、
経営判断がよりシンプルでミスリードのないものとなると考える。

辞書によれば「① もうけ。得とく。収入から費用を引いた残り。利潤。」(大辞林 第三版)となっている。
辞書によれば、「利益」=「儲け」となっているのである。それに従って経済紙なども同義語として使用している。
しかし、「利益」=「儲け」であるならば「黒字倒産」という言葉は違和感がある。
黒字とは「利益が出ている」=「儲かっている」という意味となる。
それなのに企業が存続できず、意に反して破綻するというのは、国語的に考えればありえない言葉ということになる。

しかし、現実に「黒字倒産」は起こっている。
決算上、損益計算書では「利益」が出ており、貸借対照表は債務超過ではなく正常である場合でさえ、資金が極限に枯渇して支払い不能になった状態である。
そうであれば、「利益」=「儲け」ではないのではないだろうか?儲かっているのに支払資金が極限に枯渇することがありうるだろうか?
今回はこのことを詳しく見ていきたい。

2.「利益」とは何か?
 
 先に述べたように「利益」とは「決算上」のものである。「利益が出た」というのは「決算上、損益計算書の利益が出た」という意味である。
その場合、「利益」という単語が指すものは、一般的に「経常利益」もしくは「税引き前当期利益」あるいは「税引き後当期利益」である(統一された見解はない)。
これらは、売上が計上されて、費用を差し引いたものであり、差し引く費用の段階に応じて、
「売上総利益(粗利)」「営業利益」「経常利益」「税引き前当期利益」「税引き後当期利益」と複数の「利益」が存在する。
そのまま普通に考えれば「利益」=「儲け」となるのも理解できる。

しかし、実際は「売上金が回収されていなくても、売上は計上されることがある。」
あなたの会社はどんな決算方針で臨んでいるだろうか?
代金回収を持って「売上を計上」するのか「伝票発行」を持って「売上を計上」するのか?

「発生主義」と呼ばれる一般的な決算の計算では、「伝票発行」に伴って「売上を計上」することになっているため、
多くの会社では、回収されていない「売掛金」の金額が混じって「売上高」が計算されている。
「手元にないお金も手元にあると誤解をしかねない形で売上高に入っている」ということなのである。

また、費用はどうだろう。費用の中でも「非資金費用」がある。
普通に考えると、費用とは支払ったお金、つまりなくなったお金と解釈できるが、
お金を支払っていない、なくなっていないのに「支払って手元からなくなった」こととする費用がある。
また支払っているのに、費用に計上せず、貸借対照表の資産等に計上場合もある。

例えば、売上原価を見てみると、卸資産の存在がある。損益計算書上、利益を計算する際には、棚卸資産の増減も当然加味されるが、棚卸資産は入金でも出金でもない。
棚卸資産が増えている場合、売上原価は少なくなり、損益計算書上の利益は増えるが、反対に棚卸資産が増えた分、手元資金は減っており、損をしているともいえる。

非資金費用(資金の支出を伴わない費用)について見てみると、損益計算書に出てくる費用項目の中で、実際の支出を伴なわない項目がある。
減価償却費や、貸倒引当金繰入額、貸倒損失、固定資産除却損などがその代表例である。
これらの費用は、利益を減らす要素になっており、実際の儲けとの誤差を作っている。
また、設備投資のために支払った金額は、損益計算書には出てこないため、これも実際の儲けとの誤差を作っている。

借入金に関する項目も、損益計算書にはどこにも出てこない。
借入金を返済していくときには、当然支出が発生する(しかも地域企業ではその金額がその他費用と比べても上位3つのうちに入ることが多い)が、
支払利息の部分を除いては、利益計算に含まない。決算上の利益が出ていても、それ以上に借入金の返済があれば、儲かっている会社なのだとは言えない。

新規で店舗を開店した会社が、開店するための諸費用をそのまま損益計算書に計上する場合もあるが、
まとめて貸借対照表に「繰延資産」として計上する場合もある。
繰延資産に計上する場合は多額の店舗開店資金の支払いは、支払っていないように取り扱われる。
よって利益はその分出る。しかし手元には資金はなくなっている。よって儲かったわけではないことははっきりしている。

このような状況で、決算上、損益計算書の利益は計算される。そして計算結果として我々が見る「利益」は、辞書が言うような「儲け」と同じ意味だと言うことはできないのである。

その他参考までに「非資金収益」に関する科目は以下のようなものがある。
・外貨建て債権債務を期末レートで評価替えしたときに生じる、為替差益
・貸倒引当金が不要になって取崩した場合の、貸倒引当金戻入益
・売買目的有価証券の期末時価評価で生じる、有価証券評価益

3・「儲け」とは何か?

「オペレーティング・イン・キャッシュフロー(営業CF)」-「メンテナンス・アウト・キャッシュフロー(維持目的設備投資+運転資本(流動資産-(流動負債-短期借入金))増加)」
=「フリー・キャッシュフロー」-「フィナンシャル・オブリゲーション・アウト・キャッシュフロー(負債返済+株式配当)」=儲け(戦略配分キャッシュフロー)
                                     (2003安田隆二/一橋大学)

上記の式で求められるものが、企業の「儲け」である。決算上の損益計算書の「利益」と「儲け」は別のものである。「儲け」とは「戦略配分キャッシュフロー」のことである。
一般的に「フリー・キャッシュフロー」は「会社が自由に使えるお金」を表すと言われているが、そこに借入金の元本返済は加味されていない。
よって、「フリー・キャッシュフロー」から、上記のように「フィナンシャル・オブリゲーション・アウト・キャッシュフロー」を差し引いて、
「戦略配分キャッシュフロー」を求める必要がある。
多くの企業で支出シェアの大きい借入の元本返済を無視して、フリー・キャッシュフローの金額を自由に使うと、確実に資金不足に陥ることになる。
「戦略配分キャッシュフロー」が、「儲け」であり、自由に使って、もしそれが浪費に終わったとしても、経営を悪化させない金額のことである。

一般的に「フリー・キャッシュフロー」は、「営業CF+投資CF」で求めるものではないのか?と指摘される経営者経営陣の読者は素晴らしい。
その通りである。しかし、企業経営を分析ではなく実務目的で考える時、正確に儲けを計算することは、おそらく初歩の初歩なのだと考える。
そうであるなら、「フリー・キャッシュフロー」は、「営業CF」+「投資CF」で求めるのではなく、一度その意味をよく考えてみてほしい。

基本的に「投資」は支出であるため、投資CFはマイナスである。不動産や設備や有価証券を売却して一時的に入ってきたお金を投資CFに入れると、
投資CFはプラスになる時がある。これらの要因は、経常的な事業の「儲け」ではなく、「なんらかの動機や事情がある、一時的なインフロー」である。
それを「儲け」の計算に入れるというのであれば、「長期借入金が一時的に入ってきたとき」はとても儲かったと判断するのか?ということになりかねない。

事業活動に密接にかかわっていない一時的な非経常の入出金は、除外して考える必要がある。
よって、営業キャッシュフローから「維持目的設備投資」と「運転資本増加分」を明確に示して引くことで、
より厳密な「フリー・キャッシュフロー」が求められることをご理解いただきたい。

「儲け」を端的に説明するために、聞きなれない言葉を使ってきたが、わかりやすく言い直せば、
事業による経常的回収金から事業による経常的支払いを引き、一時的で非経常なものは除外すると「儲け」が計算できるということである。

よって、資金繰り表から非経常的収支を消し、前期繰越金を引けば、一定期間の会社の「儲け」=「戦略配分キャッシュフロー」が計算できるのである。
この方法は直接法であり、難しい用語を並べて説明した方法は、決算書から求める間接法である。両者を比較すると、直接法の方が正確性が高い。
実務現場であれば、直接法の方が取り組みやすい。資金繰り表から「儲け」を計算し、健全で成長力のある経営判断を行っていただきたい。

4.まとめ

「利益」は、ある程度意図的に金額を変化させることができる。
「赤字決算を黒字化して銀行から融資を受けられるようにする。」
「黒字が出すぎたので税金支払い資金が不足するため、黒字を縮小するように決算調整する。」
といったことは、地域の企業では日常的に行われ、
場合によっては会計事務所に、「今期の利益は○○でお願いします」などという依頼をして決算期を迎える企業もある。

つまり、「利益」は「ただ一つの真実」ではない。
税金支払い金額と銀行融資に関わる文書なのである。
税金支払いの観点からは、利益は出ない方がよい。
しかし銀行融資の観点からは、利益は出ていないと困るのである。
企業はその狭間で、経営状況によって「利益調整」を行う。

しかし、「儲け」は「ただ一つの真実」である。
企業経営は、その「儲け」から投資を戦略的に行うことによって存続と発展を確保するのである。
「儲け」が大きい企業ほど、未来への投資を積極的に行うことができる。
戦略に「自己資金」の「儲け」だけでは不足の場合、「エクイティファイナンス」「銀行融資(シニアファイナンス)」などの資金調達を行うのである。

辞書によれば「利益」の反対語は「損失」であるが、「儲け」の反対語はさしずめ「出血」とでもいうべきものである。
企業の破たんの原因は「出血多量」のみであり、経営がコントロールにフォーカスすべきは「儲け」なのである。
「出血」は発生時点で早期にとらえて、すぐさま自らの努力で止めなければならない。
「利益」=「儲け」と勘違いし、もしくは混乱して、「出血」を早期にとらえられなければ、
会社の資金体力は資金繰りの中で急速に削り取られる。
資金繰り表で資金不足が見えはじめた段階で気づく企業が一般的だが(それでも決算書は多くの場合利益が出ている)、
それでは回復に大変な労力を要する。当座の支払資金がないからと、出血分を借り入れで賄うようなことをすると最悪のスパイラルに入る。
やがて損益計算書は損失を示すようになり、銀行からの融資は早晩ストップする。

「儲け」をモニターすることは、企業の存続を確実にし、成長を最大最速にするために不可欠に重要な経営者の仕事である。
それを普通に行っていると、出血は発生時点で気づき、その時点であれば止血は非常に簡単に処置できる。リスクマネジメントにもなるということを添えておきたい。

(キャッシュフロー改善の専門チーム。株式会社産業育成研究所)