会社のドメインを考えるとはどういうこと?

2017.09.12 キャッシュフロー改善 ビジネス哲学 研究 経営戦略 経営改善

シンクタンク向け定期レポートから

1.はじめに
企業が最も効率よく利益を上げるには、単一製品・商品が大量に販売でき続ける状態である。その状態が形成できるのであれば、経営における悩みの戦略的な部分は消滅する。つまり考える必要がなくなるということである。
しかし、近年は、多品種少量を求められ、場合によっては膨大な品ぞろえを市場に要求されている。そのような環境では、市場の求めに応じて際限なく製品・商品やサービスを拡大していくことで、自社の専門性や技術、ノウハウが希薄化し、許容範囲を超えるような非効率や管理コストの増大をもたらしてしまうことになる。これは企業経営にとって致命傷になりかねない。どこかに「選択と集中」をする必要があるのだ。その「選択と集中」のある一定の範囲内で市場の要求を満たし、自社が生き残る道筋を見つけていく必要がある。

多くの地域企業では、これまでの製品・商品・サービスだけでは経営の安定的な存続と発展が望めなくなり、新しい取組に積極的に着手しなければならなくなっている。その際に、これまでの延長線上で新しい取組を考えても、思考がどうどう巡りになって、新しい取組を思いつかない状態に陥ることがある。
まずは客観的に自社を見つめなおし、自社と事業を定義することからはじめてみてはどうだろうか?その定義のキーワード、ガイドラインに従って思考することで、新しい気付きや発想に至ることができる。

このような背景に従って、本稿ではコア・コンピタンスに関連して「ドメイン」について論じたい。

2.経営におけるドメインについて
 
 企業経営におけるドメインには「企業ドメイン」と「事業ドメイン」がある。
そもそも「ドメイン」とは「領域」のことを指している。
企業が「どのような領域を対象に事業活動をしていくか」を明確化するための概念である。

「企業ドメイン」とは、展開する事業(多角化)の範囲や、組み合わせ(事業ポートフォリオ)、アイデンティティ(同一性)を決めるものである。
「事業ドメイン」とは、個別事業ごとの範囲(自社の戦う場所)を決めるものである。

「ドメイン」を適切に明確化することによって
・ビジネスの方向性
・競争相手
が明確になる。

ビジネスの方向性が定まっていない企業では、市場や顧客がリピートし愛顧化することは難しい。製品、商品、サービスがリリースされるたびに新しい顧客を獲得しなければならない非効率的な状況になる。

また、競争相手を見定めて市場のターゲティングを根拠をもって行うことができる。

1960年にセオドア・レビットが、ハーバードビジネスレビューに発表した「マーケティングマイオピア論」(マーケティングの近視眼)で、映画産業が競争相手を新進気鋭のTV業界と置いたことで大作主義に陥り凋落したと示唆している。

その時期には娯楽は多様化しており、映画産業は多様化しつつあった娯楽産業を競争相手とおいて、むしろ映像制作で一日の長があることからTV産業と手を組む戦略を取るべきであったとしている。
映画産業が自身のドメインを「映像コンテンツ産業」と置いていたら、TV業界を競争相手と考えざるを得ない。しかし「エンターテイメント産業」などと置いていたら競争相手は全く違った認識になっていただろう。

他に語られているのが1950年代米国の鉄道産業の斜陽化である。鉄道会社は自らの事業ドメインを「鉄道事業」と定めていたため、航空機、乗用車、トラックなどの輸送に進出することなくそれらとの競争に敗れ衰退する。もし鉄道会社がドメインを「輸送事業」としていれば鉄道以外の輸送事業に参入する可能性も残されていただろう。

 このように事業ドメインを定義することで、競合認識は大きく変わる。それほど事業ドメインを見極めて決めることは企業にとって重要なことなのである。

3.ドメインを考える際の切り口

ドメインを考える際に有用な思考の切り口として、「エーベルの三次元事業定義モデル」(Three Dimensional Business Definition Model)が取り上げられる。

1980年にデレク・エーベルが著書「Design The Business(邦題:事業の定義)」の中で発表した事業領域の定義に関する、フレームワークである。
「エーベルモデル」や「エーベルの三次元枠組み」とも呼ばれる。

以前は、1957年のイゴール・アンゾフによる「製品市場マトリックス」など、製品または技術の軸と、市場(顧客)という軸の2軸による思考や分析で、ドメインを定義しようとしてきた。
エーベルは以下の3つの軸を、事業を定義するための軸として提唱した。
・提供された顧客グループ(Served Customer Groups)
・提供された顧客機能(Served Customer Functions)
・利用した技術(Technologies Utilized)

これらを言い換えると以下のようになる。
・事業の対象となる顧客
・満たされるべき顧客ニーズ
・ニーズを満たすための技術

この3つの軸を問いに置き換えると、以下のようになる。
・その事業の恩恵を受ける顧客は誰なのか?→誰に?
・その事業で満たすべき顧客ニーズは何なのか?→何を?
・その事業はどんな技術や能力によって実現できるのか?→どのように?

これらの3つの問いの答えが明確になったとき、事業が領域として定義される。

事業ドメインを定めるにあたって、その検証に、前稿で述べたコア・コンピタンスが密接に関係してくる。上記のエーベルの3つの問いとコア・コンピタンスは密接に関係しているからである。

コア・コンピタンスとは「顧客価値(顧客が認める価値)を創出する独自の技術、スキル、ノウハウの組み合わせ」と定義さる。「顧客価値」は事業ドメインにおける「機能軸」に、「独自の技術、スキル、ノウハウ」は「技術軸」にそれぞれ該当する。また、コア・コンピタンスを発揮するには適合した顧客・市場が必要であるが、それが顧客軸になる。
つまり、コア・コンピタンスが明確になれば、下記のように事業ドメインもおのずから確定することになる。

・その事業の恩恵を受ける顧客は誰なのか?:コア・コンピタンスが発揮できる顧客(市場)
・その事業で満たすべき顧客ニーズは何なのか?:コア・コンピタンスが創出する顧客価値
・の事業はどんな技術や能力によって実現できるのか?:コア・コンピタンスとなる技術、ノウハウ

 エーベルの三次元事業定義モデルで定義した事業ドメインが、コア・コンピタンスの観点で検証され、しっかりと合致していればそれはより適切な事業ドメインであるといえる。

4.まとめ

 自社の顧客(市場)にとっての「すごいところ」(顧客価値)がないなどという会社は存在しないと述べた。それを探索しあぶりだし、「己を知る」ことをしっかり行うことで、営業活動は。押し込みや売込みから、理解を得るための説明や翻訳のような活動になる。

そこから今度は、経営側は、自社の行くべき道を明確化しなければならない。これまでの成功体験や売れていたモノが、通用し続けることはない。
 誰に、何を、どのように提案し提供していくのかの方向付けをするために、会社とその事業のドメインを明確化する必要がある。

そうでなければ、今までどおりの活動にとどまり、環境変化に置き去りにされるか、環境変化に振り回されて多角化や多種化を推進しすぎて、経営資源を集中できなくなり、結局、何もかもが中途半端になる。それこそコア・コンピタンスの喪失である。

 ブレない軸を見つめなおし、明文化し、自分たちが戦うリングを定め(自分たちで定めることができるのだ)自分たちの戦いをする。そういう会社づくり事業づくりをしていくことで、事業が一定の場所にとどまることもなく、かといって無制限に広がりすぎて溶けて消えるようなこともない。

以上

(キャッシュフロー改善の専門チーム。株式会社産業育成研究所)