経営判断に用いるコトバの混乱

2017.04.10 キャッシュフロー改善 経営改善

(某シンクタンク向けレポート抜粋)
「売上」は「我が社に入ってきたお金」と思いこまれているが、「我が社に入ってきたお金と売掛金の合計」である。
経営者が知りたいのは、その「合計」ではなく、「それぞれ」いくらなのか?ということなのではないだろうか?

「我が社に入ってきたお金」は「回収」である。「売上」ではない。
「回収」は月次試算表にも決算書にも項目がない。
売掛金は会計科目なので、貸借対照表に存在する。
財務諸表に存在しない「回収」は計算しなければわからない。
資金繰り表から計算するのが正確でよい。「売上入金」を合計すれば良いだけである。
財務諸表から計算する場合には、二期間の売掛金の増減を、当期売上に加減する。しかしこれは間接法という手法なので正確性では、資金繰り表から計算する直接法に劣ると言われている。

皆様の会社では、売上と回収と売掛金は区別して算出いただく必要がある。そもそも損益計算書の「売上」に表記されている数字が「我が社に入ってきたお金」だと思いこんでいる時点から、適切な経営判断を行う上で著しい障害が発生するはずなのである。

「原価」は「仕入や製品の製造に掛かったお金」と思いこまれているが、「仕入発注額あるいは製造等に掛かった費用の伝票合計」に「期首在庫と期末在庫の差を加減」したものである。
わかりやすく仕入原価を例にして説明すると、損益計算書の「当期商品仕入高」は「仕入れて支払った代金」ではない。「仕入れて支払った代金に買掛金を加えた物」である。
損益計算書に於ける原価は次のような計算で求められている。

原価=期首棚卸高+当期商品仕入高-期末棚卸高

「棚卸高」とは「在庫」のことである。在庫は現金ではないので本来「資産」なのだが、現金同等物として「損益計算書」に登場する。
だから、損益計算書の原価の表記金額を見て「仕入や製品の製造に掛かったお金」などと見ては絶対にいけない。
「仕入支払額」を知りたいのであれば、資金繰り表で「仕入支払」を合計する必要がある。間接法では「当期商品仕入高」から「買掛金」の増減を加減する。

実際に今月いくら売れたか?は損益計算書の「売上高」で認識できる。
実際に今月いくらお金が入ってきたか?は「回収額」を別途計算しなければならない。
実際に今月いくら仕入れたか?は損益計算書の「当期商品仕入高」で認識できる。
実際に今月いくら仕入支払をしたのか?は「仕入支払額」を別途計算しなければならない。

 「粗利管理が重要なんだ」とおっしゃる経営者に多く出会う。彼らの言う「粗利管理」は、概念はその通りだが、掴んでいる数字のほとんどは意図した物ではない。
「利は元にあり」というくらいであり、売上から仕入を引いた金額やその比率は、認識通り企業経営にとって重要に間違いない。
しかし正確に「利は元にあり」を意識して管理するのであれば、それは「売買差益」管理になるべきである。

 原価の値に在庫が大きく影響を与える状況では、「利は元にあり」を意識した経営を狂わされてしまう。

期首在庫より期末在庫が少なければ、原価は高い値になり、損益計算書分析上の「粗利」は悪化するが、「手元資金は潤沢になる」。
仕入管理や在庫管理に経営努力すれば、実際の経営はとても豊かになり効率があがるが、いわゆる「粗利管理」では経営は悪化したと、間違った認識を持つことになり、
勘違いした「粗利管理」意識では、会社の舵取りがデタラメになり社内が混乱する。

期首在庫より期末在庫が少なければ、原価は高い値になり、損益計算書分析上の「粗利」は悪化する。
そのため、それは大きく影響し、「税引前当期利益」を悪化させる。そのことにより、法人税のムダを省き、そこでも手元に資金余力が残ることになるのだ。
副次的効果も大きいとてもよいことなのだが、
勘違いの粗利管理をしてしまうと、過剰在庫で資金繰りが苦しくなる方が「粗利がよくなった」ことになってしまい、それで全社を褒めるのか?という話しになる。

(キャッシュフロー改善の専門チーム。株式会社産業育成研究所)