月次数値管理は「こう」すべきである

2017.04.28 キャッシュフロー改善 経営改善

(某シンクタンク向けレポート)
1.はじめに

2016年3月、中小企業等経営強化法案が閣議決定された。それは本年7月より施行される。金融機関や別途定めた支援機関の経営改善支援に限界を突きつけた格好である。資金繰りが苦況にある企業に、その借入返済を猶予する措置を金融機関の協力を得て積極的に行い、その間に経営そのものの改善、改革を進めてもらおうという主旨であるが、それが思うように進んでいない。
廃業すべきは廃業せよ。そして事業の強みを強化して成長する企業を主務大臣が支援するというのが、経営強化法だ。
年を新たにして、前項までで述べてきたように私自身起業家である、そんな金融機関側に立った風変わりな立ち位置のコンサルタントが、あなたの会社を強化するために論を進める。

支援者が如何に支援の手を差し出そうと、支援担当者が如何に優秀であろうと、実際に事業を行う経営者自身が何かを変えなければ、借入返済の猶予を受けても、いつまで経っても正常返済できるような事業に復活しない。経営者自身が、「何を」「どう変え」「どんな成果を構想するのか」が明確になり、スピーディーに実行されなければならない。ポイントになるのは、難しい理屈ではなく、シンプルな改善、改革でなければならないだろう。そのための基礎的なことを、会計事務所ができるサポートも視野に論じていきたい。

2.試算表でモタつくのはおしまいにしよう

月次の試算表を2ヶ月遅れで見ているというような会社が大多数である。経営者のやる気を問われると感じないだろうか。ある月の経営の状況を示した試算表を数ヶ月経って見て、何を判断するというのか?

「いやー会計事務所に、試算表がもう少し早くできないかと何度も聞いてみたが、ウチの伝票や記帳が間に合わないので、これが精一杯だと言われたんだ」

言い訳ばかりしていて社長が務まるのか?成長企業の経営者はそんなヌルいことは断じて言わない。
孫正義さんのソフトバンクでは関係各社の1日ごとの取引が、「決算」されて翌日分析できることは周知のことである。

1ヶ月まとめてもできないのか?それで銀行に返済猶予してもらっても正常返済に戻す見通しが立たない。当たり前だろう。紙に何か書いただけの計画は人の手を借りて出しても、特に事業そのものを変えようとしていないのだから。
「伝票が何故間に合わないのか?」「記帳が何故間に合わないのか?」どうすれば問題は解決するのか?

突き詰めることをしないのは、もう能力の問題ではない。「単にやる気が欠如している」か「不真面目」だとしか言いようがない。

3.月次試算表は締めた5日後に出そう!

「試算表は翌月5日に出す」と、まず決めよう。そのためにやるべきことを明確化し、順序立てて作業や役割分担などを変えていこう。

今では経理担当者がペンで帳面を付けているような企業は見なくなった。
会計システムを導入していない企業など全くお目に掛からない。
会計システムがあれば、入力さえできれば、試算表はリアルタイムで見ることができるのはないのか?それなのに経営に無関心な事務担当者がマイペースで入力するのを待って、会計事務所がデータを持ち帰ってチェック。そしていつの間にか2ヶ月経過し、「試算表ができました」などと今もそれを許容しているようでは、経営者をやめるべきだ。あなたには経営は向いていない。

その作表に仕訳上等の間違いがないかどうか会計事務所がチェックする時間は必要だろう。しかし、試算表であって決算ではない。拙速を重んじるべきである。
そして、ほぼリアルタイムで出した月次試算表と、会計事務所がチェックして修正した試算表を比較して、修正点を理解しよう。経営判断に重要な修正などあまりないことに気づく。それほど会計システムの機能は進化著しい。

「取引先の伝票がどうしても遅れるので、それを待ってからでないと入力できない…」などと言い訳をして食い下がる…
それを、「そりゃ仕方ないね」と、試算表を2ヶ月後まで待って、出てきても「売上と利益項目」をチラ見する程度で放り出す。そのやる気のなさや不真面目さに、経営者が自らピリオドを早々に打つ必要がある。
いい加減に目覚めるべきだ。

取引先の伝票が遅れるのであれば、それは次月に回せばよいだけではないのか?
そんなことをすれば該当月の費用が実際よりも少なくなる…
よいではないか。次月にその分増えるのだから、何が問題なのか?全く何が障壁なのか私には理解できない。

そんな判断で解決できる問題を長年悪しき習慣で放置し、感度が鈍って、もはや問題としてとらえない。そのような経営者の事業は、その事業が営々と存続してきた理由である、素晴らしいポイントも、経営者の中では当たり前の日常に埋没を強いられて、光り輝くよう磨かれることもない。返済猶予も紙に書き記された経営計画も、全く意味がない。一事が万事なのである。

誰かに頼る、何かに頼る…誰かの、何かのせいにする…そういうのはもうやめよう。経営者は自分で意思決定できる権限を持っていることを思い出さなければならい。

4.資金繰り表は自分で作ろう

資金繰りがもし厳しい会社であれば、「毎日、資金の入りと出を日繰り資金繰り表にまとめよう」
そして、「1ヶ月先の資金繰り計画を毎日見直そう」。そうすればムダや資金繰り円滑化のための施策が出てくる。

資金繰りに余裕が十分あるわけでもないのに人任せにしていては、何がなんやらわからないまま、ただ言われた必要な金額の金策に走るのが経営者の仕事というバカな状況に陥ってしまう。そのような凡庸な経営の会社で、資金繰り円滑化の施策まで、従業員が考えてくれるはずがない。

経営者が率先して資金繰りを行い、それに従って変えるべきことを変え、現状を改善し、実績を見せていく。
それこそ先頭に立っている姿である。その姿を見て従業員が感じるものごとがあり、能力発揮や成長のモチベーションになるのである。

経営者が先頭に立たない会社が存続も発展もできると考える方が無理がある。

支払は円滑に行われ、資金繰りがそれほど問題ではない会社に於いても、まず経営者が資金繰り表を作ろう。「週次、月次資金繰り表」からで構わない。そして「3ヶ月程度の資金繰りの計画を毎週、毎月見直そう。」

このことによって、成長のための投資をどの程度自力でできるか、つかめるようになる。
支払いには「現状を維持する支払い」と「未来のために投資する支払い」がある。
余力は「経営者が休憩するためにあるのではない。」
資金余力は「事業が次のステップに進むために有効活用できる資源として存在する。」

このような極めて高度な経営判断は、経理担当者に「作業」扱いして投げているようでは、なされないものである。

できた表を見るのと、自分で作るのでは、理解の深さに雲泥の差が出る。
成長のためにどの程度の資金をいつ、何に投入して、いつまでにどうやって回収するのか?そのような設計図が描けるようになったら、作表を従業員に分担委譲しても構わない。

その段階では、一般的なフォーマットに数字を入れ込んだだけの資金繰り表や資金繰り予定表ではなく、意思決定に使うための自社独自のフォーマットになっているはずだ。

5.まとめ

よい経営をするとはどういうことか?
企業が存続し、成長するようにビジョンを描き、戦略を明確化し、意思決定し、人員配置を行い、PDCAサイクルで管理して、計画した成果を実際に上げ続けることだ。

2ヶ月後に会計事務所から出てきた試算表ではなく、リアルタイムの試算表や資金繰り表を取引銀行と共有しよう。試算表と資金繰り表を作成して、経営者が「わかったこと」「気づいたこと」そして「こうしたら良いと思うこと」を取引銀行と共有しよう。
そんな経営者、そんな企業と取引銀行は融資取引がしたいと考えるのである。

私の言う「いっけんバカげたことを無骨にコツコツおやりになれば」
毎月膨大な気づきがあるだろう。その気づきをひとつずつ改善と改革に紐づけて行こう。

半年もたてば、会社は見違えるように変わっていると断言する。特に何も変わらなかったというなら、良い経営者に経営をまかせて引退するか、上手に廃業した方がよい。あなたに経営は向いていない。

経営に関する数字は、会社の人間の「意思決定」「活動」によって目の前に出てきている。その数字から、時間を遡って、ありありとその現場をイメージできるか?あなたが経営者であればイメージできなければならない。従業員各位への質問魔になろう!イメージの検証のための重要な行動だ。
そこから、戦略の再構築や戦術の転換のための重要なヒントが出てくるからである。

経営管理の理論では、計画→実行→管理(振り返り)→再計画
というような流れになるが、現場の実務経営では、管理(振り返り)の機能から整備しなければならない。

なぜなら、多くの経営者が「自社のこと、自分の事業のことを、知っている」と思い込んでいるからである。
もちろん知らないという訳ではない。しかし、その知は「静的」であり、「それを知っているからといってどうしたというんだ」という類のものである場合が大多数である。そもそも計画が策定できないのは「情報不足」と「組み立て不足」なのである。

だから、実務では「管理(振り返り)」の仕組みを、経営者自身の業務から変えて作り直していく必要がある。

(キャッシュフロー改善の専門チーム。株式会社産業育成研究所)